平成27年3月10日 最高裁第三小法廷判決
国籍法12条は、日本国外で生まれた子で日本国籍を有すると同時に外国籍も取得する場合は、両親が日本国籍を留保するとの意思表示の届出をしなければ、日本国籍を失うという規定です。
憲法14条の平等原則違反が問題とされたのは、国内で出生したかどうかや、両親が届出をしたかどうかによって、国籍の得喪が区別される点です。
本最高裁判決は、この規定が憲法14条に違反しないとしました。
最高裁の違憲審査の判断枠組み
最高裁は、違憲審査の判断基準を示すにあたって、憲法10条について、次のように述べています。
「憲法10 条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。」
このように、憲法10条は、国籍の要件をどのように定めるかについては、立法府の裁量があることを示していると言っています。
それに続けて、最高裁は、国籍の要件と憲法14条に反するか否かの判断枠組みについて、以下の通り判示しています。
「そして,憲法1 4条1項が法の下の平等を定めているのは,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,法的取扱いにおける区別が合理的な根拠に基づくものである限り,同項に違反するものではないから,上記のようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別につき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく,立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認められる場合には,当該区別は,合理的理由のない差別に当たるとはいえず,憲法14条1項に違反するということはできない」
最高裁の違憲審査基準を理解する上で、あまり、判例の言い回しにこだわらない方がよいのですが、それでも、この違憲審査基準は、国籍法3条について違憲の判断をした平成20年6月4日最高裁大法廷判決と比べると、かなり緩やかな基準で判断しているようにもみえます。
憲法14条に関する違憲審査基準について(一般論)
憲法14条の保障する法の下の平等は、絶対的あるいは機械的な平等ではなく、社会通念上合理的理由のない差別を禁止するものであるというものですが、いかなる場合に合理的な区別といえるのかが問題となります。
その判断枠組みは、いわゆる二重の基準論が平等原則違反の審査基準にも妥当し、問題となっている取り扱い上の区別が、精神的自由に関するものである場合には、厳格な基準により、経済的自由に関するものであれば緩やかな基準によるというのが一般的な考え方です。
また、14条後段列挙事由は、単なる例示ではなく、列挙事由による差別は原則的に違憲の推定が働くというような説も存在します。
国籍の要件に関する問題の違憲審査基準
平成20年最判は、次のように、国籍要件の区別に合理性があるかは慎重な検討が必要と述べていました。
「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。」
国籍の性質を憲法的観点からみたとき、選挙権の有無に関わるものであると言うことが指摘できます。とすると、前述の二重の基準論の観点からすれば、国籍の得喪は、精神的自由に関するもの(民主主義の過程での回復が困難なもの)に該当するので、厳格な審査をすべきといえます。
そして、本人の意思や努力で変えることのできない事由による区別かどうかというのは、判例が、前述の列挙事由特別意味説をとっているとまでは言いませんが、これも重要だと言うことがいえます。
本判決のあてはめ
本判決は、国籍法12条の立法目的が合理的であると判示しました。
その立法目的は、日本国との結びつきが薄い、実態のない形骸化した日本国籍をできる限り増やさないようにして、二重国籍の発生を回避することにあるとした上、立法目的には合理性があるとしています。
次に、国籍法の定めは、父母の国籍を留保する旨の意思表示の届け出があったことによって、日本国との密接な結びつきの徴表と見ることができ、3ヶ月以内にする出生の届け出とともにすることとされていることから、意思表示の方法、期間に配慮がなされており、意思表示がなされなかった場合にも、日本国に住所があれば20歳までに届け出をすると国籍を取得できるとされていることなどから、立法目的と関連において合理性がないとはいえないことから、立法府の裁量を逸脱するものではないと判示しました。
ちなみに、意思表示の方法期間に配慮がなされているというのは、外国で出産した場合に、親が日本国への出生届(海外用)の提出を忘れることは稀であろうという前提に立つと、その届出書のひな形には、日本国籍を留保するとの欄が設けられているので、親が国籍法を熟知していなくても、うっかり、この意思表示をし忘れることがないよう、配慮がされていることを意味しているのではと思われます。