最高裁平成26年7月14日判決
昨今の桜を見る会問題、森友問題、防衛庁日報問題など、公文書管理のあり方が政治的にも注目を集めている中、民主主義や法治国家の根幹にもかかわる問題として、公文書管のあり方に関する法的観点を整理しておく必要は大であり、行政法分野でもとくに熱いトピックといえます。
この判例の事案は、いわゆる密約問題に関する何かと話題の事案ではありますが、上記のような意味でも重要な判例です。
この判例のポイントは、行政訴訟における主張立証責任の分配についての基本的な考え方として、法律要件分類説と侵害処分授益処分二分説等の考え方の対立の趣旨を理解することと、情報公開請求における行政文書の存在の立証責任について、判例がどのような説示によりどう判断したかです。
行政訴訟における主張立証責任の分配に関する説
A説 法律要件分類説
民事法一般と同様、根拠法の規定から権利根拠規定、権利障害規定、権利消滅規定に分類する。
B説 侵害処分授益処分二分説
行政法的観点を重視して、その行政処分が国民の自由を制限し義務を課するものであるか、国民の側から権利利益領域を拡張することを求める処分であるのかによって分類する。
C説 個別具体説
当事者の公平や事案の性質、立証の難易等により個別具体的に定める。
各説の本件での帰結
A説によれば、情報開示請求権の権利根拠規定として、行政文書の存在は原告に主張立証責任があるとの帰結となり、B説によっても、情報公開請求権は知る権利等に関する精神的自由に関するものではあっても、憲法上直ちに認められるものではなく、実定法の根拠があって初めて発生するものであるので、原告側に主張立証責任があるということができます。C説では、このような観点に加えて、行政文書が行政機関の支配領域で作成、保存、破棄されるものであることを重視すると被告に主張立証責任を分配する考えに寄っていきます。
本判例の判断
最高裁判所は、「行政機関の長に対する開示請求は当該行政機関が保有する行政文書をその対象とするものとされ、当該行政庁が当該行政文書を保有していることがその開示請求権の成立要件とされていることからすれば、開示請求の対象とされた行政部署を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては、その取消しを求める者が、当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負う」と判示しました。
この説示からすれば、裁判所は、基本的に法律要件分類説の立場から結論を導いているといえます。
このような立場に対しては、国民側では知り得ない行政機関内部で文書が存在することを立証しなければならず、困難を強いるものであるとの批判がなされるところですが、この点は、立証責任を転換することによるのではなくても、立証の方法や程度について工夫をすることで解決することで克服していくとすることも考えられ、その際には、公文書の管理に関する法律が平成23年に施行され、公文書の管理について同法の定めるところも参考となります。
なお、公文書管理に関する現在の制度に対する評価については、行政文書の定義において「行政機関の職員が組織的に用いるもの」とされていることが、個人メモとの言い逃れを許していることに対する批判などがあり(これを行政文書の解釈上の不存在の問題と言います。これに対して、本判例は物理的不存在の問題です)、詳しくは、
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/283826.html
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/3223.html
でわかりやすく解説されています。