<判例> 公正証書遺言が適法な口授を欠いたため無効と判断された事例

平成26年11月28日大阪高裁判決

民法969条は、公正証書遺言の作成方式について、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させることを要するものとしています。

「口授を筆記し」というと、①口授、②筆記の順序である必要がありそうですが、実務的には、遺言者側から事前に公証役場に資料を送付し、予め公証人が書面を作成していることも多いと思われます。
判例(最高裁平成11年9月14日)は、このような場合も、口授として適法であると判断しています。

本件で問題となったのは、公証人が遺言の内容を説明し、遺言者が頷いたり、「はい」と返事をしただけという態様の口授が有効であるか否かでした。
大阪高裁は、遺言の内容の複雑さや、遺言者の意思能力の状況なども踏まえて、適法な口授があったとはいえないとして、遺言を無効としました

判例は、公証人の質問に対し、言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときは、口授があったものとはいえないとしています(最高裁昭和51年1月16日)。したがって、頷いただけでは、口授があったと言うことはできません(なお、障害などのために声を発することができない場合は、民法969条の2による 「遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して」、口授に代えることができます。 )

本件では「はい」と返事をしていますので、言語を発してはいるわけですが、遺言の内容の複雑さ等を考慮した、総合的判断として、無効とされるリスクがあると言うことになります。

比較的簡略な口授が有効とされた判例としては、 読み聞かせが終了した後、公証人が「このとおりで間違いありませんね。」と尋ねたところ、遺言者が「そのとおりで間違いありません。よろしくお願いします。」と答えたという事案に関する東京高裁平成15年12月17日があります。